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対談 学校法人中部大学 理事長・総長 飯吉厚夫

物理学者として日本と世界の発展の第一線で活動をしてきた、飯吉総長。過去と現在の取り組み、学生、幼少児童期に大切である環境についてお話しいただきました。

また安曇野市出身である中部大学人文学部長 柳谷啓子さんにも同席頂き、ご助言頂きました。柳谷さんは児童期をイギリスで過ごされ、総長同様慶應義塾大学卒業。コミュニケーションを中心とした実行力を伴う学びを実施されています。

ビッグプロジェクト

栗林ISN代表(以下省略): 大変多くの功績を残されてきました。概略を頂けますでしょうか。

飯吉中部大学総長(以下省略): 私の専門は物理工学です。プラズマ、宇宙に関係した。太陽が輝く、あんなに放出しているのはなんでだろう。源は核融合。核分裂と核融合というものがあって、原子力発電所は核分裂なんです。核融合私共の物は水素を燃やしている。海水の中の重水素というものを燃やして、エネルギーを出そうというもの。同じ核反応ですが、そこが違いです。太陽の温度は高い。4000万度くらいです。それを地球上で実現できないだろうかという事で、勉強を始めました。慶応大の工学部を出まして、一番研究が進んでいるアメリカのプリンストン大学に2年近く行きました。次にイギリスのカラウ研究所で1年程、それから慶応に戻り1年。その後京都大学で20年近く研究を続けました。いろいろ方式がある中で、私たちがやっていたのはヘリオトロンという装置を使ったもの。ギリシア語で太陽はヘリオスというんですね。成果が出たものですから国が認めてくれて、岐阜県の土岐市に大きな研究所を作って、大型ヘリカル装置(LHD)を建設しました。今は一億度、太陽よりも高い温度が出ているんですよ。超高温になると気体は原子と電子がバラバラに運動するプラズマという状態になります。

栗林:構想からここまでどれくらいかかったのですか?

飯吉:完成まで8年、構想を入れたら10年です。

栗林:そうですよね。

飯吉:これが、”ビッグプロジェクト”。お金が続かなくなって、日本ではこれが最後になりましたね。今は大きな装置を作るよりは、コンピュータとかITとかソフトの傾向ですね。これは日本の物づくり、一番ピークの時です。LHDは600億なんです。

栗林:補助金が600億出ているという事なんですね。

飯吉:建物が400億。所長として10年間務めましたが、今となっては我ながらよくやったなと思います。日立、東芝、世界的なメーカーも力を結集して、建設してくれました。今はもうできませんね。

栗林:企業から多くのエンジニアが来たのですか?

飯吉:1,000人くらいは来ました。

栗林:このようなエネルギーが作られることによって、日本でのエネルギーの使われ方が変わってくるという事でしょうか。

飯吉:人間はエネルギー無くしては生活が出来なくなっています。原子力は問題になっていますね。

栗林:問題ですね。

飯吉:そういうものに頼らないように、太陽のエネルギーを使う、風力等再生可能エネルギーと呼ばれるものがある。最近では、太陽光発電が注目を集めています。しかし、太陽パネルはエネルギーがわずかしか取れないから、分散させなければならない。LHD装置は、集中的に大きなエネルギーを得ることが出来る。核融合発電炉の第一号がフランスのカダラッシュで国際協力で建設中です。

栗林:世界は、原子力を使わずにエネルギーを得る方法を探していますね。

飯吉:この良いところは、高レベル放射性廃棄物が少ないところ。建設費は1兆円規模です。

栗林:大きくなってもそれに見合った採算であれば。

飯吉:燃料は海水です。世界集約し、世界で1台だけ作ろうと、それがフランスで進めているものです。あと数年かかるでしょう。

栗林:大変だったけれど、専門でされていたから、ワクワクして楽しかったのではないですか?

飯吉:それは楽しかったですよ。今までないものを作るんですからもの。

栗林:どの研究でもそれが醍醐味ですよね。好きな事を自分が先頭でやっていくという。

 

現在の研究

栗林:今はどんなことをされていますか?

飯吉:もっとすぐに役に立つものを研究しています。効率の良い新しい送電装置に取り組んでいます。超電導ケーブルというもの、一般の電線に代わるもので、上手くいっています。

栗林:補助金が取れやすいから、又は昇給や、大学で自分のポジションを確保するために、研究を選ぶ傾向があることがあるという事を聞きました。その中で、お好きな事をされ続けることが出来たのは、それに長けていらっしゃったのはもちろんですけれども、幸運であるかと察します。子供達の中で一番幸せなのは、それがサッカーでもお魚屋さんでもエンジニアでも、自分のやりたい事をやっている時は、苦労じゃないんです。

飯吉:そうですね。

栗林:やらされている事が一番辛いんです。ISNの学びの中では、好きなことに長ける、個性は、大前提です。弱いところはサポートする、でも飛び出ている、吐出したところは絶対に押しつぶしてはいけない。それを押しつぶして平均的な子を作り続けているのが今の日本になっていると見ます。

飯吉:だから何も出てこないです(笑)。

栗林:これやっておいてというと、ある程度上手にやってくれます。でもちょっと色を加えてというと「何色ですか?」それが、おかしいんです。ロボットのように指令を待っている現象になっている。何がいけないかっていうと、それは教育の環境だと思います。教員も、「これを教えなければならない」というノルマのために悪循環が生じている。

 

心を育てる、人と繋がる

ISNは先生たち全体が、子供に個性があるのは当然である学びを実践し、効果が出ています。ISNの生徒達は、学びの態度でも、英語でも、日本語でも褒められるので、もっとやりたい気持ちが高められます。水泳も楽しい、音楽も出来ちゃうとか。子供達は心身健康的な循環の中にいて、幸せなんです。幸せって人生で一番大切なことです。自分の幸せ、周りの幸せ。自信が備わっている子どもたちは周りの子供たちを助けます。褒められる、自信が付く、幸せっていう循環が、「世界平和」に繋がっていくんだろうなと思います。それを草の根運動的に、この百数十人のスクールが英語やITCなどやっています。音楽もスポーツも、そのスキルをツールとしてポケットに持っていて、使うことが出来る。それを認めてくれる先生達スタッフがいるのがISNの学びの環境です。総長にとって理想の子供達の学びの場とはどんなものだと思われますか?

飯吉:今おっしゃったことは素晴らしいことだと思います。

栗林:ありがとうございます。

飯吉:新しいことを生み出す原点ですね。今はSNSやパソコンに頼りすぎじゃないですかね。ああいうものから新しいものは出てこない。あそこに入っているデータは過去のものです。新しいものは、自分たちで創り出さなくちゃいけない。

栗林:そうです。

飯吉:そういう習慣をつけておかないと。新しいものは生まれません。

栗林:戦後何もなかった時、何もかも作らなければならなくて、皆さん頑張ってこられた時代がありました。現在それがとまってしまっている原因として、物やサービスに満たされている環境は一つですが、その一方で、幼少のころから家庭でどのように子供と接してきたのか。

飯吉:平和ではない今の時代。いつ核戦争が起きるか、皆不安を抱えている。核戦争が起きたら、人類が滅亡する可能性もある。そんな中何かがおかしいねと感じていると思う。ひとつの例は、福島のお話。10歳くらいの女の子が、今何が一番欲しいかという質問に、「穏やかな生活がほしい。」人間にとってそれは一番基本的な事。例えば母親が赤ちゃんを抱くような繋がりや、平和な心を求めています。それを大事にしていく社会にしていかないと不安が高まる一方です。不安な中で新しいものは出てこない。子供達にとって大事なのは平和な穏やかな生活が第一で、どのようにそれを大事にしていくか。

栗林:愛情に満ちた心が大切に育てられて、ですね。家庭の愛情に包まれて育った子供は自信があります。虐待にあっている子どもたちに比べてびくびくすることもないし、お友達にも優しい、心に余裕が出来ます。

飯吉:そういうときに、直観が働きます。理屈で出てくるものではなく、感じ取っています。直感が新しいものを生み出す。いくらデータが頭に入ってきても、新しいことは出てこないのです。そこを乗り越えるには、創造力。それは直感でひらめきです。それが出やすくなるような教育を小さいうちにしておくというのは非常に大事ではないかと思います。

栗林:学校でも家庭でも、「忘れ物無い?」「帽子持った?」と言われるよりは、「何をしなきゃいけないのかな」と提案してあげる。自分で考える癖がつくコミュニケーションの取り方。できたことを数字で評価しない。教育の現場にいらっしゃる総長の目で見ても、点数が高いからこの子は賢いなんて言えませんね。数字では表せないところがそのひらめきだったりします。人と違ったユニークさもです。

飯吉:ひらめきとおっしゃった、まさにそれが直感で、その人のオリジナリティー。それが無い人は人のフォローをするだけになってしまう。大学も偏差値教育。点を取る事ばかり考えている。人のランクがつけられてします。人がその人のランク付けをしています。我々の大学では人間力をつけることで、新しい能力をつけられないかなあと思っています。

栗林:先程柳谷教授とお話した内容ですが、高校までにそんな心が養われていたら、伸ばしやすいですよねと。

飯吉:大学に入るまでに皆つぶされちゃう(笑)。

栗林:大抵そうなんです。丁寧に丁寧につぶしています。

飯吉:システマティックに個性が殺されていますね。

栗林:奇抜であったり、何かをする感覚がなくなっています。手をあげて、先生そこ違うよって、違うのが分かっていても、言えない。

飯吉:そうです。

柳谷教授中部大学人文学部長 (以下省略):日本社会全体がそうですね。出る釘は打たれます。

栗林:チームの空気を読んだり、良いところもあります。

飯吉:大学に入ってくる頃は遅いですね。

栗林:残念ながら遅いです。

飯吉:でも我々はやらなきゃいけないから(笑)。ESD(Education for sustainable development)、中部地区のまとめ役を担い、そんな社会を作っていこうと活動していますが、なかなか広がらないですね。

栗林:ISNは一番大きい塊の生徒達は1,2年生です。もうちょっと先の話ですが、高学年から中学の子供達にとって、総長はどんな学びの環境が理想的と考えますか?

飯吉:ISNで育てられたそんな生徒さんたちであれば、中部大学で採りますよ。

栗林:ああ、多分申し出ましたら採られると思います(笑)。ISNの子供達は全員魅力的です。

飯吉:そういうところの子は、無試験で採りますよ(笑)。

栗林:!もう録音されちゃいましたよ(笑)。

柳谷:(中部大学では)スーパーグローバルハイスクールをやっていて、その路線で送って頂けると。

栗林:偏差値で言うと高いんです。基礎知識は備わっているので。それを応用する力があることを評価しているのを生徒は理解しているので、そこに意味を見出すことが出来ています。例えば本を読んで、そこに書かれていることをがすべて理解したら、真ん中の緑の評価。そこから他ものとリンクすると次の青いレベル。新しいことをイノベーション、生み出したら紫に移れる。

飯吉:ISNは小学生までですか。

栗林:中学生までです。

飯吉:せっかくそこまで育てられて、大学に入るまでにつぶされないようにしないと。

栗林:多分日本の外の学校も、本人たちにとっての選択肢になると思います。

飯吉:海外。

栗林:優秀な子たちは、大学の時期、皆日本から出ていってしまうかもしれない。

飯吉:ただし海外に行ってもSNSやっている人たちもいますね。同じような流れが広がって、ユニークさがなくなってきている。

栗林:テクノロジーだけが全てではないですね。

 

良いものを広める

栗林:ISNの成功の一番の要因は子育てを、保護者と皆一緒にしている、寺子屋的なところにあると思います。2歳からずっと、一緒に、子育てしているんです。そんなところが、日本各地に出来たらいいなと思います。国は英語もITCも「考える力」もカリキュラムに取り入れようとしている。でも今の状態から日本が大きく変わるには、沢山の時間がかかるし、国としても危ないことはしたくないと思います。簡潔に、国が私たちのスクールを研究校、特例校として利用しないか。松本市だけが潤うだけではなく、田舎、地方都市で、小さい規模の学校を立ち上げて、保護者のフィードバックをもらう。地域ごとにニーズは少しずつ違ってきます。総長がおっしゃられたような心のよりどころ、家庭、コミュニティーを創っていく。塾ではないんです。そこで、こどもたちは心を養い、グローバルな視野でスキルを身につけて行く。試験的に3,4カ所創るとか。

飯吉:ISNの届け出はどちらですか?

栗林:認可外保育施設という認可のカテゴリーで、県です。

飯吉:何かできないかな。

栗林:根本的には50年70年プランだと思います。でも誰かがやらないと、今の子供達の個性がうかばれない。一般的な大学生ばかりになって困るのは皆さんです。

飯吉:そうですね。難しいけれど規模が小さかったら可能かもしれませんね。理事長や学長に気に入られたらいいかもしれない。本当の教育者はこのままではいけないと思っているはずです。小学校を検討する余地はあります。中学高校一貫校的になっている。慶応みたいに、年々増えています。中部大学の中学は外を受けるような進学校になっている。

栗林:例えばそんな小学校が中部大学の周りにいくつかあっても大学としてはいいですよね。

飯吉:それは良いですよ。初めて聞いた話ですが、先生の話を理解する人は必ずいますから、どこで火をつけるかですね。

栗林:こういう話を良いねと思ってくださっている方は、ビジネスなどでこのままでは本当に困る、危機に直面していらっしゃると思います。

飯吉:天才はそんなにいる人材ではない。でも天才がいないと新しいことは始まらない。歴史を見ると、音楽のベートーベン、モーツアルトなどまとまって出るんです。我々のような物理学者もアインシュタイン、プフランク等1世紀くらいの間にまとまって出たんです。学問の領域が新くなったタイミングだったんです。(目指す学校の数が)少なかったら、火種にはなるかもしれませんね。

柳谷:中部大学には現代教育学部があって、コラボして調査対象になり、学会とかあちこちで発表してもらう。

飯吉:それは出来ますね。柳谷さんがいるうちにやってもらってくださいね(笑)。受け入れる方も理解している人がいる事が大事です。

柳谷:新しい教育の方法に関しての研究テーマに興味を持っている人達はいっぱいいます。そういう所とタイアップすれば、少なくとも学会ではワーッと情報が流れますね。

栗林:学会に情報が行ってどうなるんですか。

柳谷:やはり動くところは動いていくと思います。幼児教育は専門ではありませんが、英語教育であれば英語学会、英語教育学会などで新しいメソッドの成功を発表すると、長い時間が経つと、指導要領にも反映されてくるでしょう。

栗林:学会の情報を読む人は誰でしょう?

飯吉:その教育の専門家です。教育者が口コミで国や行政の方に流れていく形です。行政も良いアイディアがあれば、受け入れられる余地はあるでしょう。

栗林:実績ですか。

柳谷:実績があればおのずと求められるようになるでしょう。

飯吉:ぜひ続けてください。

栗林:生徒達は私たちの家族です。そういう美しいものが松本のコミュニティーに作られている。方や一般的に小学校は、学校と保護者の対立というイメージです。北欧の国々では教師は信頼、尊敬される立場。「子育てから始まる愛情、人と人との繋がり」、というレベルからの人としての教育を始めていかないと。先程のSNSだけの人間関係に操られる人間がもうできてしまっている。

飯吉:先生のやっている事をフィンランドと提携してやったりするとかなりインパクト出ますよ。柳谷先生の言っていた、一生懸命考えている学会があると思います。同時に上に繋げていくシステムを作ること。

栗林:高校や大学の過程でしょうか。

飯吉:中部大学とやるという事はあります。

栗林:時代の流れもあって、そういう子たちが入ってきやすいような環境を整えなければならない、嬉しい悲鳴が大学から上がると思います。

飯吉:組織が大きくなってしまっている大学と比べて、中部大学のような考え方をしている所はそんなにいないです。

栗林:学会で発表されるのは大学の先生で、私ではないですよね。

柳谷:発表なさったって大丈夫ですよ。

栗林:本当ですか?話したら止まらないですよ(笑)。

柳谷:新しい試みで、教育に関わる事は皆好きですから。

飯吉:入園時点で、この子はISNに合うとか、選別するのですか?

栗林:2歳児ですもの、身体的に特別なサポートが必要でない限り皆受け入れられます。1年生で入ろうとしている子とは4年の英語の差があるのです。話す能力は当然すごいですが、読み書きもとても強い。1年生で英語力ゼロでの参加は難しい。

飯吉:先生は何人くらいいるのですか?

栗林:スタッフは32,33人くらいです。

飯吉:そんなにいるのですか。日本人と外国人の先生の割合は?

栗林:2歳児から2クラスずつ、それぞれ外国人担任。保育士免許を持った、英語での指導が問題ない日本人のアシスタントが各クラスおります。

柳谷:地元に親がいて、コミュニティーが整っていて、となると大学が海外でも戻ってくる可能性が高いでしょうね。

栗林:松本で、愛する心とアイデンティティーが確立している子ども達です、戻ってきますよ。

柳谷:大都市などのインターナショナルスクールであれば帰ってこないですね。海外にしか目が向けられていない育てられられ方と言いますか。

栗林:転勤族は多いですね。

飯吉:語学だけでなくて才能が伸ばせられるような形がいいですね。

柳谷:素晴らしい人間を育てたもの勝ちです。

飯吉:時間はかかります。

栗林:15年後の準備を今していきたいんです。

飯吉:松下村塾。吉田松陰が20歳くらいの頃、14,15歳の少ない人数の門下生が、明治維新を成し遂げたんだから。学生に火をつける。そういう動きがまとまって出るときはあります。世の中みんなおかしいと思っているんだから、やることは必ずあると思います。吉田松陰は、教育界のサクセスストーリー、教育の大改革です。伊藤博文、大久保利光、高杉謙信、皆そうですよね。

栗林:松本に来たときは寄ってください。ISNの生徒達を見ると幸せな気分で帰れます。勉強している感覚がない子供達です。

飯吉:先生の情熱には感銘いたしました。

栗林:ありがとうございます。今の学校を大切にしていきたいです。