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ISNx企業 Vol.12

信州Well-being有識者対談インタビュー Vol.12 金子 行宏さん

今回対談するのはInternational School of Nagano代表栗林と、ASPINA シナノケンシ株式会社 代表取締役 常務 金子 行宏さんです。

栗林: ウェルビーイングのインタビューをさせていただいている目的は、信州の外に住んでいる有識者の方々や、豊かな暮らしをしたいな、質の良い生活をしたいなと思っている方々に「信州では、こんなウェルビーイングの取り組みが既に行われている」ということを伝えたくて。様々な業種の方のお話を聞きながら情報発信させていただいています。
金子さんにとってウェルビーイングってどんなものでしょう?
金子: ウェルビーイングという言葉は色々な意味を持っていると思っています。ウェルが「良い」、ビーイングが「存在」ということであれば、良い存在であること、つまりはなぜ生きているのか?ということを考えます。私が最近好きな星野富弘さん(手足の自由を失った詩人・画家)の作品に、
いのちが一番大切だと思っていたころ生きるのが苦しかった。いのちより大切なものがあると知った日
生きているのが嬉しかった。という詩があります。「いのちよりも大切なこと」を見つけるのがウェルビーイングじゃないかなと私は思います。そういう意味で考えてみると、経営者としての立場もあるのですけれど、会社に関わる人がどんな生活をしていくかが大事になってきます。幸せっていうのはいろんな形があるので、全ての人を幸せにする一つの形を決めることは難しいと思います。企業に関わる人にとっての「私たちらしい幸せ」を定義して、広めていくということが大事なのかなと思っています。ある人の考える幸せはこれだけれど、他の人の考える幸せは違う、一人ひとり違って、それを受け入れられる社会を作っていくのが、ウェルビーイングを実現するために重要かなと思っています。
私たちの会社には106年の歴史があります。その歴史で作られた私たちの会社らしい文化の中に、その幸せの形があるだろうし、それを進化させていくというのが、私の「いのちよりも大切なこと」なのかなと思います。
栗林: 「いのちよりも大切なこと」ですか。


金子:「いのち」というと、生物として生きる命と、人々が関わりあう社会の関係性の中での命という二つがあると思うんです。前者の生物としての命のサイクルはもちろん決められているわけで、基本的には寿命で決まってしまいます。しかし、社会の中の命は長く残せるものがあります。
ASPINAがシナノケンシとしてどうやって始まったか、というところにさかのぼるとちょっと面白いんです。「シナノケンシの目標」と「社員心得」っていうのがあるんですよ。(名刺の大きさの社員カードを差し出す) こういうものを大切にしていまして…。これは二代前の社長が最初に作って、今の社長が少し書き換えて。「真の資産は人である」とか、「自ら考え、自ら行動しましょう」とか。人が人をすごく大事にするというのが経営の中心だと思っています。
なぜそうなったのかをずっと紐といていくと、106年前に私の曾祖父がこの会社を起業したのですけれど、会社は絹糸の紡績から始まったんですね。この絹糸紡績というのは、機械で絹紡糸を作る方法なんです。そのころの繊維業でメインだったのは、女性が手作業で糸を巻く(手繰る)工程でした。私の曾祖父は当社の起業前に知り合いと一緒に製糸工場を経営していたのですが、この方法だと上手い人と下手な人がいて、上手い人は良い給与をもらえて、下手な人はあまりもらえない。このままだと労働環境が良くないだろうと考えて、じゃあ機械で作ったらいいというのが、起業のきっかけの一つでした。みんなが自分の力を発揮できる環境を作っていこう、という考え方で、そういうところを大切にしている会社です。
栗林: スタートがセンセーショナルですよね。公平性とか、その時に困っている人たちに目が向いて、そして能率的にみんな認められるようにと。その想い、動機はいいですね。
金子:そして最近キーワードとして大切にしているのが、自己実現と多様性。特に自分で決めた未来を達成することは大事だし、多様性というのは、ちょっと居心地が悪いのが楽しめる、ということだと思っています。
栗林: どういう意味ですか?
金子: 多様性のある環境で様々な人々と議論すると「こいつ全然考え方違うじゃん」とか「今それ言う?」とかあるじゃないですか。
栗林: なるほど。
金子: みんなが何でも「はい、それいいです」と言う環境には多様性がない。多様性とは、ある意味認められないものを受け入れるという社会観があると思っていて、それを楽しめる会社になるのがいいんじゃないかなと。うちもグローバルにやっているので、グループ各社にも中国人、アメリカ人、ドイツ人、メキシコ人、インド人等、本当に多様な人々がいるのですが、割とそういうところで違和感を感じずにやっているところがあるかなと思います。そうやってASPINAを進化させる環境を作っているのかなと。
最近人事のメンバーの活動で、自らポジションを選んで学べるアクションを始めたり、”教えたい、教えられたい” プログラムを導入したりもしています。こういうポジションで人を求めていますっていうのを社内公募して、会社の中から人財を探し出そうとしたり、自ら手を挙げて自分のやりたいことができるようにしています。
コミュニティー面でもいくつか。地域の教育関連では信州大学と研究を一緒にやっているほか、「先端産業論」という講義で「ASPINA特別講義」という授業もやっています。全8回、正式に単位がもらえるものですね。
あとは「ASPINA祭り」という地域向けの企業祭もやっていて、社員がワークショップやアトラクションで地元の方々をおもてなししています。
栗林: グローバルから地域まで、いろいろな取り組みがあるんですね。
金子: 会社としてはジレンマもあって、グローバル競争の中で数字と業績を見て、厳しくやらなければいけない側面もあります。その中でのウェルビーイングを考えると、経済的な競争を乗り越えて、共同体としての価値観を作り、それに合わせて環境や仕組みを作っていくこと、そして、それを考え続けることが大事なのかなと思います。

栗林: 「経営者としての立場もあるけれど」と言われていましたが、関心をもって考え続けることが「会社に関わる人たちにとって良いこと」なんですね。
金子: ありがたいことに、うちは106年の歴史がありますので、そういう精神はわりと根づいています。私が学ぶこともいっぱいあります。

日常の業務と並行し、歴史ある会社を繋ぐ役割として、さらなる学びに関心を持ち、深めている金子さんそのものが、全体の成長の基盤をつくっている感じがしました。立場や活動のステージによって、豊かさ、幸せの見方、できることなどが違ってきますね。一人ひとりの自立、レールを敷かない形の成長を奨励し探究している、金子さん自身の、そして会社の今後の発展が楽しみだなと思いました。