佐久市長・栁田清二 × 栗林(ISN)対談インタビュー

はじめに
今、私たちが学びのゴールとして掲げている「ウェルビーイング」。
この言葉は、教育の現場、社会、そして未来をどう照らすのでしょうか。
今回は、佐久市長・栁田清二さんに、ウェルビーイングの捉え方や社会への期待、そして教育に 果たす役割について、じっくり語っていただきました。
ウェルビーイングは「幸福論」である
栗林:
ウェルビーイングについて、お聞きしたいことが2つあります。
1つは、「ウェルビーイング」という言葉が、栁田さん、そして佐久市にとってどんな意味を持つの か。
もう1つは、私たちISNが「ウェルビーイングを学びのゴールとしています」とお伝えしたときに、ど のような期待をお持ちいただけるか。この2点を伺えればと思います。
栁田市長:
そうですね。まず「ウェルビーイング」とは何かというところから申し上げますと、私はこれは幸福 論だと捉えています。
「自分が幸せになっていくこと」。人の幸せも大事ですが、まずは自分自身の幸福をどう育むかと いうところが出発点です。
ウェルビーイングには、たとえば「心理的安全性」といった考え方も含まれています。 それを“アプローチ”などと形式ばって言わずとも、自然とそうしたものが身につき、自分の中で 育っていくことが大切だと思います。
「星の王子さま」と幸福論


栁田市長:
政治もまた、よく「幸福論だ」と言われますよね。私もその通りだと思っていまして。 たとえばお金の分配も、より多くの人が幸せになるための一つの方法です。
そして、私がよく引用するのが『星の王子さま』の一節です。
「この星で一番偉い人は誰だろう」と尋ねたときに、「暗くなった街を明るくするために電球を変え ている人」が挙げられるんです。
これは、人が困っていることに対して、自分の能力や時間を使って、快適な状況をつくる。その行 為を尊いと評価しているんですね。
私は、これも一種の幸福論だと思っています。
こうした価値観を、現代社会の視点で俯瞰して見てみると、「ウェルビーイング」という言葉に集約 されるのではないかと思います。
社会課題の中で、どう幸せをつくるか
栁田市長:
今、社会にはたくさんの課題があります。人口減少、人手不足、賃金の変動、高齢化、外国人や 女性の就労参加など、挙げればキリがない。
でも、どの時代にも課題はありました。戦争をやめる、経済を立て直す、国民の胃袋を満たす ――その時々で、社会が抱える困難と向き合ってきました。
重要なのは、「課題があるから幸せになれない」ではなくて、課題がある中で、どうやって幸せで あるかを考えていくことです。
ウェルビーイングと教育
栁田市長:
ウェルビーイングという言葉は、突き詰めれば「価値観」です。
そしてその価値観は、人の行動・発言・思考を形づくるものです。だからこそ、できるだけ多くの 人に理解・共感してもらえるよう広めていきたいと思います。
最近は「ウェルビーイング経営」といった形で、企業活動の中に取り入れる流れも出てきています よね。こうした動きは非常に良いことだと思いますし、私はとても希望を感じています。
そして、それを社会の中で根本から育てていくためには、やはり教育が非常に重要な場だと考え ています。
幸福の“ボリューム”は人によって違う
栗林:
幸福って、要素がいろいろありますよね。お金、身体の健康、スキル、人間関係…。 そして、一人でいるのが好きな人もいれば、みんなと一緒にいたいという人もいる。 そういう意味で、「自分にとっての幸せって何だろう」と探求していくこと自体が、面白いと思うん です。
栁田市長:
そうですね、今のお話で言うと、それは「ボリューム」だと思うんです。
一人でいることが心地いい人もいれば、人と一緒にいることで満たされる人もいる。 ただ、どちらも大切な要素で、人は両方の要素を持っているけれど、その“ボリューム”が人によっ て違う。
どちらが正しいとかではなくて、自分にとって心地よいバランスを知ることが、ウェルビーイングの 理解につながるのではないかと思います。
知らないと「求めない」。だから触れる機会を
栗林:
ウェルビーイングに触れていくことで、幸福の質も内容も、豊かになっていきますよね。
栁田市長:
ええ。ウェルビーイングという考え方に、強く否定的な人はあまりいないと思います。 でも、「知らないから、求めない」「知らないから、行動が変わらない」という人は多いと思います。
だからこそ、知らない人が自然と“触れられる機会”を社会の中に増やしていくことが必要なんで す。
それができるのが教育であり、また、それに共感している人が行動によって広げていくことでもあ ると思います。
言葉より、体験で伝える
栗林:
言葉だけじゃなくて、活動を通じて触れ合ったり、挨拶をしたり、気持ちのよい空間をつくる。そう した体験から入ることが、すごく大切だなと感じます。
栁田市長:
そうなんです。自分が気持ちよくなる、相手も心地よくなる。
それを「やってみて初めて気づく」ことって多いですよね。
でも、それを知らないと行動は変わらない。
だから、「知る・触れる・体験する」ことを通じて、自分の幸福に近づくきっかけをつくる。 それがウェルビーイングを社会に広げる鍵だと私は思います。
子どもたちのウェルビーイングを守るために、大人が学ぶ
栗林:
つい子ども目線になりがちですが、結局、学ばなきゃいけないのは私たち大人なんですよね。 天真爛漫な子どもたちが、そのままでいられるように、私たちの側が学び続けていく必要がある と感じます。
栁田市長:
おっしゃる通りです。子どもたちは、そのままで尊重されるべき存在です。 だからこそ、その子どもたちのウェルビーイングを保つには、大人たちがまず学び、変わる必要 がある。
そして、その学びを支えるのが「教育」という場です。
私は、教育が本当に質の高い学びを提供できる環境になるよう、社会としてしっかり支えていくこ とが重要だと考えています。
お話を聞かせていただき、ありがとうございました。