無印良品を展開する株式会社良品計画はグローバル企業であり、「自然に。」「無名で。」「シンプルに。」「地球大。」をモットーとしています。会社の取り組み、金井代表取締役会長の「社会と教育について」の見解をお聞きしました。
教育、国力、個人 ー 北欧の歴史の授業より
ISN栗林(以下省略):「先日ISNが国際バカロレア認可校になりました。探求を中心にしたプログラムなんです。英語、日本語、ITCのバランスを見て、先生の時間を有効に使いながら、改善を進めております。」
金井代表取締役会長(以下省略):「一般的な価値観、従来の日本の教育における偏差値ではどのレベルなんですか?高い方?」
栗林:「高いです。日本の大学を目指す生徒は地元の学校に行けるように、でも海外の有名な大学に行きたい生徒はそれに見合った高校に行けるようにサポートします。そのためにISNでは日本の学校受験にも合わせて、1週間の日本語の時間に国語と算数が入り、3年生からは社会や理科が日本語ではじまります。今年度の生徒は学年総まとめの全国テストでほぼ満点を取るという結果を残しています。はじめは枠にはめられた学びもしなくてはならない矛盾に嫌悪感がありましたが、今は日本語レッスンの時間は”日本ではこのように学ぶ”という日本文化の一部としてとらえることにしました。」
金井:「国際的な学力テストでは、北欧、フィンランド、ノルウェーがいつも上位ですよね。」
栗林:「国連が実施しているテストで5年位前は常にトップでした。」
金井:「これはフィンランドの小学校5年生の歴史の教科書ですけど(金井会長のスマートフォンで説明)、フィンランドは公立高校しかない。日本の私立のような概念が無くて、しかも日本、中国、韓国の受験競争みたいなものもないです。それでいて、なぜ学力が世界のトップか。彼ら曰く教師が一番尊敬される仕事だという。大変優秀な人が教師になって、皆から尊敬される。資源もないから、国の未来、国力のためには教育しかないのだという意識がある。高校でも皆同じような内容で特別なことはしていないと聞いたので、たまたまフィンランドの小学校5年生の教科書を送ってもらって見せてもらったら、日本のように”良い国に作ろう鎌倉幕府、ハイ繰り返して”、みたいなことは何もやっていない。」
栗林:「そうですね。」
金井:「歴史とは未来を考えるうえでとても重要な勉強だと言いながら、昔の話など何が本当に正しいのか実際には分からないし、それを考えていくのが歴史。昔の話は分からないし、昔も今も戦争が起きて、それがどんな理由で起きて、どうなったのか、それもほとんどが勝った者の話なのでこれも信じられるとは限らない。そんなことが冒頭に書いてある。」
栗林:「全てを信じちゃいけないって、(フィンランドのテキストを指して)ここに書いてあります。」
金井:「教育の方法は大事で、日本がフィンランドのような考え方になれるのは40~50年後かなと思いました。」
栗林:「個性を育てていくことは大切であると事を国が意識しています。先日インタビューさせていただいたフィンテックグローバルの会長、ロバートさんはフィンランドで大きな事業の取引があって頻繁にフィンランドに行くそうですが、フィンランドの会社の社長や、役員、エンジニアが女性である割合がとても高いと聞きました。」
金井:「日本ではないね。」
栗林:「人口が500万人ほどのフィンランドで人は財産。一人一人を確実に高納税所得者に育てるという、教育への投資が、国が回すのだと思います。私たちは日本に気が付いてもらって、ISN研究室として、使ってもらいたい。田舎の都市で世界水中の教育の選択肢の一つとして存在したいと思います。一つの学校ですごい利益が出る必要はないが、自立して運営がされなくてはならない。小さい子供なので、何でも吸収してくれて、保護者の方に喜んでいただける。地域のインスピレーションになればと思います。」
分断化を戻す仕事
金井:「MUJIのコンセプトをどのように伝えていくか。ものを介してコミュニケーションをとっていきたい。」
栗林:「起きている事を知ってもらう事。知ってもらい、良識があれば、見合った正しい選択をしてもらえる。地球に対し人類にとって少しでも持っていなければならない本当に大切な感覚であって、それでも改善しきれないのは環境保護団体の力が弱いから?私たちの意識が低いのか?誰の責任なんだろう、やっぱり皆で取り組まなくてはならないのでしょう。」
金井:「メッセージを” 伝えよう”とすると、少し”うざったい”ということになる。私が好きな言い方は”感じてもらいたい”。 社会の問題で、過剰な市場経済が起きた。資本主事、産業主義だし、グローバル化しているから、市場競争が急激に広がって、過激になったのがここ何十年でしょう。そういった市場に人々、産地、企業、今は国家も巻き込まれている。大変生きづらい社会を人類が作ってしまった。その背景にあるのが、お金中心世界になってしまったこと。その結果、今何が起きているのか。私たちはしょせん動物、生き物であるのに、自然と人間との関係性が分断された。あるいは地域社会と人々、人と人の関係性も分断化・希薄化されたな、というのが、私たち全体の悩み。それらをもう一度取り戻していくことに貢献したいと思っている。」
金井:「無印良品は1980年に生まれました。消費社会というものがどんどん日本に入って、物は大体日本の家庭にいきわたり、人間が持っている飽くなき欲、それと人の目を気にする時代でした。これが、消費社会でビジネスをしようとする企業にとってはとても魅力的でした。コンプレックスから生まれていることもあって、金髪のお姉さんがヴィトンやシャネルのバックを持っているのを見てうらやましいと思ったり、友達と比べたりした時代だったのです。冷静にみると、そんなものに惑わされず自分らしく等身大で美しく暮らそうとした人も少なからずいて、私たちはその人たちが選び取るであろう商品を作りたかった。ブランド名やデザイナー名を載せずにそのまま手渡しましょう、というのがスタートだった。」
栗林:「それが西友(現合同会社西友)からの商品。」
金井:「自分らしく暮らそうとするお客様はわずかしかいないかもしれないけど、社会が成熟し、良くなっていくと、そういう商品を求める人も増えるだろう、そして、そういうお客様が社会を良くしていくのだろう、と。分断されてしまった関係を繋いでいくのが私たちの仕事。」
栗林:「商品やお店を中心にして。」
金井:「もちろん商品や店舗を中心に事業を展開していますが、例えば里山を守ろうとする人がいれば、東京のお客様を連れて行って、一緒に里山で農業体験をしてもらう。他にも、道の駅は全国に2100カ所くらいあるけれど、その7割以上が赤字。」
栗林:「道の駅は地元の人が勝手にやっているのでしょうか?」
金井:「”勝手に”ということではなく、市や県が補助金を出して、地域活性化のための箱を作るんです。地元の農家に指定管理という権利を出して、地元の人が運営しているけど、経営感覚が無いとなかなかうまく回らない。誰が手掛けるかによって上手くいっているところもある。」
栗林:「私道の駅大好きです。」
金井:「他にも、日本の森林は世界一なんです。」
栗林:「何が世界一なんですか?量?質?」
金井:「量も質も。」
栗林:「カナダとか考えちゃいます。」
金井: 「(先程)素晴らしい日本とおっしゃったけど、特殊な島国で、温帯で雨がたくさん降って、木の成長やバラエティが世界一。ところが日本が工業化に向かった時代から、農業や林業、漁業といった日本の多くの1次産業が衰退した。自分の息子にこんな苦労をさせちゃいけないと、皆現場からいなくなった。今、森林は価値なく荒れ果てている。木材の出荷量の8割はドイツやカナダ、オーストリア。出荷量は多いけれど、質は日本の方がずっといい。あちらは合板で、便利に使えるため世界に広まった。でもソリッドの無垢は日本が圧倒的。その素晴らしさに皆気が付いていないんです。」
栗林:「わずかな人は気が付いていて、松本にもおしゃれなレストランがあって、おしゃれな珍しい、美味しい野菜を安く食べることが出来る。きっと松本周辺で育てたヨーロッパなどからの野菜なんだと思います。農業も今まで通りの事だけじゃなくて、土がなくなったり変化がある。人が一番お金がかかりますね。無知ながら、放ったらかしの山を見てもったいないなと思う。お金になるか、仕事が楽になる方法を見つけないと栄えないですね。」
金井:「簡単ではないね。私たちは千葉で、お金を払いながら田植えをしています。楽しいけど、毎日やるとなると大変。でもすべてをコンピュータ、ロボットに任せるのではなく、月に2回程度であれば自分の身体を動かして林業をやってみるとか。ブルーカラーを全面否定したら社会がおかしくなってしまうと思う。両方やってみる事が必要だと思う。」
栗林:「そもそも人間はそこから生まれたわけで、感謝の気持ちも生まれ、土を触ることは気持ちがいいし、インスピレーションが生まれると思う。」
金井:「地球の二酸化炭素の総量は今も昔も変わらないけれど、土の中にあった物を私たちが化石燃料として使ってしまうから大気に出てオゾン層を壊すことになる。それを昔みたいに戻していく活動としては、森林や農業は効果があり、大切なことです。」
MUJIスタッフの学び、子供達の学び
金井:「都会の公園はたくさんありますが、小さい公園はほとんど使われていません。」
栗林:「鉄棒とブランコしかない。」
金井:「花火しちゃいけない、ボール遊びもできない。」
栗林:「確かに使いようがないですね」
金井:「それをもう一度活性化しようと、取り組みを始めています。おもしろいでしょう。企業としてどこにメリット、収益があるのかと皆心配してくれるんだけど。結局、教育とか、そういうクリエーションを普通の社員がそういうことが出来るというか、情報を編集する能力を勉強するってこと。情報編集がこれからの企業に必要だね。」
栗林:「情報編集とおっしゃりますと?」
金井: 「これまで企業は情報処理で成長してきたけど、今は情報処理は機械の方が早くて安く出来てしまう。情報編集というのは要は考えるってこと。さっきの日本の従来の勉強の様に、暗記が重要ではなくて、むしろ自分で考える力を作っていくという学習が大事、それは会社でも同じことだと考えています。」
*ISNでは5つの色に分かれて評価をします。例えばこの本を読んで何を得たかなという評価で、赤は”読み始めたばかりでサポートが必要。”、”黄色はここに書いてあることが1つだけ言える”、”緑はここに書いてあることは完全にプレゼンテーションすることが出来る”、ここまでが日本の従来の学びに求められていたことです。(ですので断片的な一斉テストでは皆とても良い点が取れます。)でも私たちは、青と紫に行かせてあげたい。”青は、この本に書かれているコンセプトと、この本の外で学んだコンセプトを繋ぐことが出来る。”、”紫は青でつながったコンセプトを実現するために今までになかった方法、物、サービスなどを創り出す、または実際に実行に移してみる。” 生徒達は紫を目指し、一人ひとり自分の得意な分野(動物やサイエンス、医療など)でとてもユニークなアイデアを発表し、実行に移そうとする。子供達天然の高い創造性を全身で使い、純粋に探求の循環を楽しんでいます。
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対談を終えて ‐ 飽くなき欲/他人の目にとらわれない等身大の生き方が出来る感覚が備わっているのは、自信のたまもの、財産です。何が大切なのか、それは誰かに教えられるものではなく、感じるもの。「良質な消費者の探求」に魅かれてお会いさせていただいた金井代表取締役が、冒頭でフィンランドの教育について語られた瞬間、お会いしたことは大正解であったと確信しました。体験し、感じる。ISNでは早速、化石発掘体験、林業センター訪問、工場見学など、五感を使う社会での学びを計画しました。
より多くの人に、地球単位で事象や、変わらなければならない教育コンセプトを感じてもらえるように。ISN生徒、スタッフ、保護者一人一人がスクールの内外でムーブメントを起こす力を持っています。ISN子供達の幸せと成長に、保護者の皆様とパートナーとして”触れ”ながら、共に成長を続けます。