信州Well-being有識者対談インタビュー Vol.10
今回対談するのはInternational School of Nagano代表栗林と、ZANEARTS(ゼインアーツ)代表小杉敬さんです。
栗林: ウェルビーイングは、生活の豊かさ、食などいろいろですが、”世界水準”や、”自分と全体” 、”生活の質” のようなことに意識が向いている方へ、信州でウェルビーイングが既に存在している案内をさせて頂いています。信州の観光的な良さのみならず、そこにいる人たちがどうなのか、もっと具体的なイメージができたらと思い、お声をかけさせて頂きました。
まず、どんな活動をされているか教えてください。
小杉: うちは、アウトドア製品をこの場所で企画して設計とデザインして、作るのは、中国とか台湾とか国内で作る場合もありますし、適材適所で1番向いてる場所で生産、作ってもらうんですね。
アウトドアの多くはOEMと言って、作られたものをチョイスするって言う企業が多いんですけど、うちの場合は、オリジナル製品をここでデザイン設計して、金型って言う、投資をして、完全にオリジナル製品を作るって言うやり方なんです。そこが特徴的というか、他の会社さん達は割とOEMは高い比率でやってるんですけど、自分たちはそこが違う、100%オリジナル製品を作ると言う特徴があって。”アウトドア愛好家の皆さんが「これがいいよね」と言ってくれる製品を生み出す” のが1番重要で、なので、産地に近いとか。お客さんが近くにいる都内にいるとか、そういうので起業しなかったのは、やっぱりこの現場、アウトドア環境に自分たちが身を置くにことによって、より精度の高いものづくり、アイディアが生み出せると思って、この場所に来たんですね。
栗林: 来たってどういう意味ですか?
小杉: もともと新潟生まれ、新潟育ちなんですけど、ビジネスで考えると、活動期間が長いわけじゃない。仕事ができる期間というか。新潟にいると雪深いところなので、雪が降ってしまうと、物流が止まったり、自分たちが撮影ができなかったり、効率が悪いんですよね。長野といっても松本って雪が降らないし、自然に近いし、都内に行きやすいし、関西の方にも行きやすい、環境としてはものすごく揃っていて。で、地方に行けば自然はもちろんいっぱいあるんだけど、ビジネスと、”自分がこの地で生きていく” と言うバランスを考えると、ものすごい適地。
栗林: (拍手)改めてそうだなって思いました。
小杉: そうです。自分たちが仕事以外に「生きる」と言うことを考えると、生活がしやすかったり、仕事もしやすかったり、全体のバランスがすごくいいと思いますね。
栗林: 以前お会いした時に、小杉さんが言っていた忘れられない言葉があって、「キャンピングとは自然災害の時に自分の命を守るスキルを身に付けること、そして自然を根っこから理解すること」だと。
小杉: そうですね。その通りだと思いますね。なんだかんだ言って人間て自然から食を得ているって言うところがこれからも変わらないし。生態系の中に組み込まれているわけですよね。そうすると、生き物として人間だけでは成り立たないわけであって、自然と共存して行くことを考えていくと程度知っている状態っていうのは大事だと思うんです。都内にいて、なんとなく自然の美しい景色を見て、と言うのはアウトドアにあるイメージだと思うんですけど、長野県のアウトドア人口は少ないですよね。
栗林: 生活がアウトドアだからですかね? (笑)
小杉:そうそう(笑)既に自然見てるし、ここにいると毎日北アルプスが見えてるわけですよね。自然の中に身を置いているので、わざわざその奥に入らなくてもってことになるんでしょうけど、都会にいて丸の内とかに働いている人とかは、日々その自然を見ることもないし。長野にいたって、1日のうち、土を踏む機会すらもない。都内ならなおさら自然に触れる機会がない。やっぱりそういうところに身を置いていると不安になるんじゃないかなと思うんですよね。ほんとだったら、生態系の中に組み込まれて生きているものが、本当は本質的にあって、本当は本能の中に組み込まれているはずなんだけど。そこから離れた世界にいると、何か不安感が出てきて、美しい自然の中に身を置いてみたいなとか言う思いから、ちょっとアウトドアしてみようって思ったり、上高地行ってみようと思ったりするんじゃないかなぁと思うんですよね。その自然を見ることによって安堵感を生まれて、もともと本能の中に組み込まれているものなので、安心感とか何か「来てよかったよね」。リフレッシュすると言うのは、本能を取り戻していく作業のようなものというか、そういうことなんじゃないかなと。
栗林: 私たちも長野県でインターナショナルスクールをはじめた時に、よく言われたんですよね。なんで松本なのって?(笑) 生きていく中で必要なものってちゃんと、人の中で求められているんじゃないかなと思っていて。私たちは、教育の中で、”全部大事” みたいなコンセプトの中で、集まってくれた先生たちが、食や、作ること、保つこと、環境、いろいろな知識やスキルをシェアしてくれる。地方都市でそれが提供でき、周りの地域のみならず、いろんなところから家族が集まる形になってきました。
プログラムの1つの例として、パーマカルチャーは、今あるもの(資源)で生活をしていく考えで、田畑、外のエリアを使って、環境デザインから生き方を学んでいます。
小杉: サーキュラーエコノミーみたいな感じかな。
栗林: すごく近いと思います。リサイクルにしても、今後一層ビジネス的に考えていかなければならない社会になってます。
車があるから、歩く量が減って、薪割りをしなくなったから、身体を動かす機会が省かれ、その代わりにエクササイズをしなければいけなくなったり… 2024年にカナダ人のインストラクター達と一緒にサマーキャンプを高学年、中学生対象に提供するんですけど、もちろん子供たちのプログラムだけど、大人にメッセージを届けたいなと思っていて。信州のインターナショナルスクールだからそこでしかできない事、こういうアセットだと思うんですよね。
小杉: 自分がもともとアウトドア好きだからっていうのはあると思う。若い時は東京行きたいなとかはあったけど、ある程度世の中見てビジネス的にも世の中に関心を持つようになって、東京にいることが最先端ではないなって思えるようになったんですよね。世界の人たちってそういう文明の発達のほうに興味がある傾向がある。都市だからっていうことよりも、そこにあるらしさというか、文化に興味がある人が多いなと思うんです。買い物をしたいと言う欲求ではなくて、その文化に触れて、自分たちの立ち位置を知るみたいな。世界を見ると多いなぁって思ったんですよ。評価される代表的な都市ってそうじゃないですか?昔はニューヨークだったかもしれないけど、今はポートランドの方がかっこいいよねとか。
栗林: それを聞いていて、…何がかっこいいのかって言うのはスピードだったりテクノロジーだったり、それは否定はできないけれど、心の豊かさだったり大切なものもありますね。
小杉: 理念を求めたりする世界の中では、(スピードとかテクノロジーとか)そういうところを目指そうと言う(そこまでの)目標だったり。満たされる状態ができたときに豊かさがそこにあるのかと言うと、それはちょっと違う。
根本の豊かさとか、人として生きる、人生を歩むときに、本当にベストな環境ってどうなんだろうって思うと、適当な文明と文化があって、結構な比率で自然がそこに存在するバランスというのが良いのではないかと。あまりエコ、エコにこだわり出すとちょっと違うように思うんだけど、人が生きていく中で必要な便利さみたいなのは最低限なければならないと思うし。自然と共生できている街というのが世界的に評価されていると思う。そうするとどんな街があるかで見てみると、意外と限られている。松本は、そのバランスがめちゃめちゃいいなと思っていて、ここに越してきたということなんです。
栗林: それはいつでしたっけ?
小杉: 2018年です。もともと北アルプス登山もするんで、よく来てて。すごくバランス取れた街だなってずっと思ってて、大きさとかもちょうどいいし。すごくいいなと思って。長野全体的に好きだったんだけど、その中でも特に松本、世界に誇れる北アルプスっていうのがあって、街も文化的な側面もあって、すごく良い場所だなって。
栗林: 小杉さんの今の表現、土地の価格が上がります(笑)
小杉: (爆笑) そう思いますよ。かといって仕事しにくい環境でもないし。新幹線が通らなかったのは良い要因だったと思います。
栗林: よく言われます。
小杉: 新幹線通っていたら終わっていたかもしれない。通らなかったからこそ、これが残ったんだと思うんです。ちょっと古い人は長野市が県庁所在地で、オリンピックする時も偏りがあってと言う人がいるけれど、今はエネルギーや環境のことを考えると、車に乗らない社会とか、徒歩で生活する生き方の方が新しいわけじゃないですか。だから街を車中心に考えていくのはナンセンスだと思っていて。そう思えば昔のシステムのままで良かったと思うところもあると思うんです。途中から車中心で考えていると後戻りできなくなっちゃう。
栗林: だから、ちょっと人気のある所では、ニュージーランドでも、LAでもサイクリストのための道が大きくとられていたり。
小杉: 大阪でも御堂筋のところを車乗れないようにして、歩行者天国にする構想があって素晴らしいなと思う。松本でも、いろんなしがらみがあって絶対無理なんだけど、松本駅から県の森までの大きい道路を車乗り入れ禁止にして、芝が全体に貼られていて、公園になるみたいな環境整備の方が今求められているんじゃないかなって。かっこいいじゃないですか。
栗林: かっこいい。
小杉: そういう街づくりのほうに向かって行けそうな街が、松本なんじゃないかと思うんです。
栗林: あー。
小杉: いや、無理ですよ(笑)
栗林: 無理かどうかわからないですよ。3年とか言ったら難しいだろうけど、15年計画とか、いつまでに20%達成するとか。
小杉: もともとはそこは路面電車が走っていて、だから道路幅があって。それを壊したから無駄にでかいところなんですけど、あれ半分で良いですよね、本当は。道路幅としては4車線ある必要なくて、2車線で充分なんだけど、あの半分つぶして左右芝生にして県の森まで歩いて行けるようになってもだいぶ違うと思います。
栗林: それ誰に提案したんですか?
小杉: 市長に。
栗林: なんて言ってました?
小杉: 「いいねぇ」って言ってた(笑)
栗林: (爆笑)
小杉: 中町でさえ、無理だったんですよ。駐車場管理してる人がいるし。困る人が、大勢出てくる。中町は、車が通っていることの方が違和感があるじゃないですか。みんながそういう意識を持っていけばガラッと変わるんでしょうけど、いろんな思いの人がいるから難しいんでしょうね。でもポテンシャルはあります。
栗林: 今言われた、ありえないプランとかも、15年構想とか、周りが描いちゃってもいいのかなと思います。
小杉: うんうん。
栗林: 例えば、適当な国を挙げますけど、オランダとかが見たときにかっこいいと思われるような街になってればいいなと思います。
小杉: そうそう。
栗林: 「ポテンシャルはある」
小杉: まだ東京とか大阪を見てるんだけど、そこの水準を上げていかないと。
栗林: こっちのが、”cool” ですよってね。
小杉: ビジネスの世界で考えたら、東京や大阪と張り合ってもしょうがない。世界に目を向けて世界の動向を見ながら、じゃあ自分たちはどういうビジネスにしていくんだって考えているんで。だから、松本が世界的にも誇らしい街になってくれれば、自分としてもビジネスしやすくなるし、いろんな人たちが自信を持ってここで生きれるわけですよね。東京と張り合っててもしょうがない。東京はもうこれから集客しにくくなってくる街だと思う。でも松本はまだまだポテンシャルはあって、いろんな海外の人たちが来たいと思える街に変化できると思うんです。
栗林: そういう絵が描ける人、たまにいるじゃないですか。知り合いでもいるけど、縄手通りはこうしようとか。街をデザインするというか。15年先と30年先位のスパンで。ビジョンって描かないと作れないし、小杉さんはわからないけど、私は絵を描ける人間じゃないから。その絵が示されれば、みんなの頭の中に「できる」というイメージが作られる、信じられると思うんです。
小杉: 北アルプスって世界的に有名で、コロナ収束して、上高地はすごく混雑しているじゃないですか。山開きはすごかった。観光地として世界の皆さんが注目する場所だから、ここをもうちょっと引き伸ばしたらと思うんですよね。今の観光って日本の人たちをターゲットにしている傾向があって、それを海外の人たち目線で作るとか。
ただ「生きる」と言うところで考えるとちょっと生きづらい街はある。文化というところを突き抜けている街だけど、でも自分たちがそこに住みたいかと言うと住みにくそうだなって感じる街。そこの土地にいる人たちが快適に生きている状態がベストなんだと思う。豊かね。ポートランドがものすごく評価されるのがそこですよね。言ったって別に何があるわけな街ではないけど、評価されるのは、その土地の人たちのマインドが素晴らしいからだと思います。1番重要なポイントは。ポートランドの山、川、松本と同じように井戸水が至るところにあったり、自然環境が評価されてるってこともありますけど。
栗林: 「生きる街」
小杉: うん。
栗林: 松本市が、日本の都市だけじゃなくて、世界の人たちの水準の中でも、松本らしいcoolや豊かさ、快適さがウェルビーイングに直結している状態かもしれません。
小杉: 世界の人たちが来て、ここいいよねって言わせるためには、ここで生きてる人たちがそのような状態になっている環境でないといけないと思う。学びもそうだし、遊ぶことも、生きてく行為全て、ここに移住すると、こんなに豊かな生活が待っている。「憧れ」ですよね。
そんな中で、子供も、大人も、教育は全ての中心だと思います。頑張ってください。頑張っていきましょう。
(後記)それぞれのライフスタイルの中で、子育てや仕事ができている状態を作る。自然。生きやすい場所。仕事と生活、生きることのバランス…. アウトドア第一線で活躍するゼインアーツの小杉さんが想いを聞くと同時に、自分たちのやっていること、自分たちのいる場所の再確認の時間にもなりました。ご協力ありがとうございました。